『日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由』を読んだ

投稿者 おおかゆか 2009-01-22 10:41:00 GMT

日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由

前回の記事からもその感がにじみ出ていると思うが、私は「SE(システムエンジニア)」という言葉が嫌いである。同程度に「PG(≠プログラマ)」という言葉も。

要求や設計といった「上流工程(※この言葉も嫌い)」を行う人がSEで、SE様のありがたい設計をコードに落とし込むべく一山いくらで取り替え可能な頭数として調達され泥臭い「下流」の作業を担当するのがPGということになっているわけだが。
そもそも設計と実装って、そんなに明確に切り離せるものでもないだろう。作ってみないとわからないことだって多いし、コーディングの途中で設計を変更したいと思うことなどはザラだ。そういう場合にこのような身分制の下では、PGごときがSE様の決められた設計に口を挟むなど畏れ多い、となってしまう。

かくして「PG」のモチベーションはことごとく低下し、技術力を磨くよりはコーディングなどという下賤な作業とはさっさとお別れすべく、「上流」のSEやPMを目指すというのが日本のソフトウェアエンジニアの正しいあり方とされてきた。
そういう日本のいわゆる「IT業界」に対して一家言を持った、腕に覚えのあるおじさまたちの愚痴や批判を集めたのがこの本である。

日本のいわゆるSIerと呼ばれる企業群は、実質的には「IT企業」などとは程遠い人材斡旋業であること。
自前で人材を抱えず下請けに丸投げしたほうが目先の利益が高くなるため、ゼネコンと同様の多重下請け構造に陥りがちであること。
請求が手っ取り早い人月計算ベースであるため、早くシンプルなコードで実装できる優秀なプログラマよりも、回りくどく手数がかかり後々メンテが頻繁に必要となるようなコードしか書けない技術力の低いプログラマのほうをありがたがること。

よくあるIT業界の批判がつらつらと並べられているが、筆者たちによるとこの根本的な原因は、ユーザー企業の側に存在するという。
「うちは特殊ですから」というお決まりの言い訳で業務の進め方を全く変更する気がなく、システムへの投資効果の厳密な検証など考えもせず、ブランド志向で大手ベンダーの人月計算を鵜呑みにするユーザー企業の姿。
これこそがSIerに好き勝手させ、彼らを堕落させている元凶というわけだ。

「日本の政治がお粗末なのは、日本国民の政治に対する意識の反映」とは良く聞く言説であるが、要はIT業界もそれと同じということなのだろう。

では具体的にどんな対処法があるのかということになるが、それについてはこの本には明確には書かれていない。
行間を読む限りでは、この本も含めて危機意識のあるエンジニアが警鐘を鳴らすことで、ユーザー企業が目を覚ましてくれるのをじっと待つということだろうか。

自分としては、そもそもの原因は日本における人材の流動性の低さにあると思っている。
日本になぜSIerという他国で例を見ない受託開発中心のITベンダーが増えたかというと、その理由は簡単。ユーザー企業がシステムを内製しないからだ。

なぜ内製しないかというと、システム開発および運用に必要となる労働力には時期によって大きな波があるため。日本ではいったん雇用した正社員はよほどのことがない限りクビにはできないので、必要なときにだけIT技術者を雇うということができない。

だからSIerにその業務をアウトソースすることで、経済的に効率化を図っていると言える。しかしこの受託によるもたれ合いが、現在のIT業界の惨状をもたらしているのは先に書いた通りだが、さらにはユーザー企業側にもその悪影響が出始めている。

証券取引所のシステムの「不具合」で売買が何時間も停止したり、鉄道や航空会社のシステムの「不具合」で旅行客が足止めをくらって駅や空港の構内に難民があふれたり、銀行のシステムの「不具合」でATMやネット取引が停止したり、といったことは今日ではめずらしくない。

雇用の流動性が確保できれば、ユーザー企業が自社でIT技術者を抱えてシステムを内製することが可能になるため、これらの問題も解決に向かう可能性が高いはずだ。
システム開発の必要に応じて能力の高い技術者を相応の給与で雇用し、プロジェクトが終われば最低限必要な人材だけを残して、他の必要とされる企業に移ってもらう。

それが主流となれば、受託中心のSIerが存在する必要はなくなり、技術者もその能力に応じた給与がもらえるようになるため、キャリアアップのために現場を離れる必要もなくなる。
SE、PGの区別がなくなり、プログラマとマネージャーというキャリアルートの違う専門職がそれぞれ自分のスキルを磨くことができ、それによって成果物の品質も向上する。

逆にユーザーから高い人月費用を分捕るために、会社によってSEやPMの肩書きだけを与えられてスキルを磨こうとしてこなかったような人たちには地獄かもしれないが、これがあるべき本来の姿だと思う。
そして今のこの不況が、日本のIT業界がその本来の姿に戻れるラストチャンスなのではないだろうか。

世間では感情的に派遣業務の規制が叫ばれたりしているようだが、なくすべきは過剰な正社員保護のほうであって、雇用の流動性を高めることだと私は思う。そしてそれはIT業界に限った話ではないはずだとも。

 

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